こころのレシピ
東京支部では、この時期に寄せられているご相談について、ストレスや苦難を乗り越えるための知識や工夫を産業カウンセラーの立場からお答えし、ブログで紹介することで、少しでも皆さんのお役に立てればと考えます。
第7回は、シニア産業カウンセラーや研修講師として活躍する原美聖さんの登場です。ぜひご一読ください。
※相談内容・相談者は、実際に寄せられている内容を加工・編集しており、実際の相談内容をそのまま掲載したものではございません。
【ご相談:Yさん・訪問介護サービススタッフ・50代】 訪問介護サービスの会社でパートとして働いています。この状況下、移されても移しても怖いという不安を抱えつつ、利用者さんのお宅へ通う毎日でした。同僚の中には仕事を休んでいる人もいますが、自分まで休むと利用者さんにご迷惑をかけてしまうと勤務を続けておりました。 2週間ほど前、風邪の症状が出たため、仕事を休んでかかりつけ医を受診しました。2日ほどしっかり休養したところ風邪の症状も収まりましたが、上司と相談し、念のため2週間自宅待機しました。 復帰明けに職場に行きましたら、先輩のNさんから「あなた新型コロナだったんじゃないの!?」「この2週間ほんとに大変だった」「みんな疲れきっているから、感染者が出るかもしれない」と暗に私が休んだことを責められました。私なりに頑張ってきましたが、Nさんの言葉でなんだか心が折れてしまいました。これまで何のためにリスクを負って仕事をしてきたのかわかりません。もう仕事は辞めてしまおうかと思う一方、利用者さんのことを思うと申し訳なさがあります。ここ数日、気分の落ち込みが強いです。どうしたらいいのかわかりません。 |
(原)辛い気持ちをよく相談してくださいましたね。ありがとうございます。
風邪の症状で2週間の自宅待機後、仕事に復帰したとたんに、先輩から新型コロナへの感染を疑われたり、仕事を休んだことを暗に責められて、それまで頑張ってきたこころが折れてしまわれたんですね。Yさん自身が感染の不安を抱えつつも、利用者に迷惑をかけまいと思って頑張っている時に、先輩から心ない言葉をかけられて、やり場のない気持ちになっていらっしゃることが伝わってきました。
1.先輩の心の内を見てみる
「先輩の心」に近づいて、先輩の心の内がどのようになっているのかを見てみましょう。今回のような攻撃的な言葉の背景にあるのは、「不安」や「恐怖」という感情です。今回の新型コロナウイルスのように、相手の正体が分からないと恐怖心が強まり、自分にどのように降りかかってくるか先が見えないと不安感が高まってきます。先輩が何とかしたい相手は、本当はYさんではなく目に見えないウイルスなのですね。このような緊張状態が続いた上に、業務の疲労が加わったことで、平時であればできるはずの感情のコントロールができなくなったのかもしれません。こんな風に出来事をちょっと引いて見て、別の視点から捉えてみるとどうでしょう。心に少し余裕ができて楽になるかもしれませんね。
2.自分の心と身体を労わる
まずは、会社を辞めたくなるくらいに辛い気持ちになっている自分を認めてあげましょう。そして、身体が疲れていると心にも影響が出てきますので、できるだけ身体を休めて労わってあげましょう。少しの時間でも身体を横にしたり、睡眠もできるだけ取るように心がけてください。また、身体に意識を向けてゆっくり深呼吸を繰り返すことで、気持ちが少しずつ落ち着いてきますし、温かい飲み物で身体を温めると心も温まってきます。家族や親しい友人、同僚とコミュニケーション(対面、電話、メール、line…)を取って、人とのつながりを保つようにしましょう。
3.仕事への誇りを持ち自信につなげる
利用者さんに申し訳ないという言葉からも、「介護サービス」という仕事に対する真摯な姿勢と使命感を持って仕事に向き合っていらっしゃることが伝わってきます。このような状況の中でも、仕事に対する価値観や軸がぶれないのは、とても立派なことです。このような経験は、渦中にある時には見えないのですが、困難が終わった後には確かな自信につながるものです。
海外では、市民が毎日夕方7時に医療従事者に拍手をして感謝の気持ちを伝えているそうです。Yさんも同じように敬意と賛辞を贈られてしかるべきだと思います。Yさんを待っていらっしゃる利用者さんのためにも、仕事に誇りを持って取り組んでいただけると嬉しいです。もちろん無理をされないで…。
4.相談してサポートをもらう
上司の方に相談して、話を聴いてもらいましょう。Yさんの状況を伝えた上で、上司から先輩に上手に正確な情報を伝えてもらったり、不安になっている先輩のこころのサポートもお願いできるといいですね。また、現在の仕事の負担についても相談して、コロナ禍での業務の分担についても一緒に考えてもらいましょう。
会社に相談窓口があれば、そちらに相談するのもいいでしょう。外部にも相談窓口がありますので、辛い気持ちは一人で抱え込まないで、いつでも相談してください。
みんなで支え合いながら、一緒に乗り切っていきましょう。
《まとめ》
コロナ禍での心の安定に大切なこと
①正確な情報: 不確かな情報に振り回されないようにしましょう
②規則正しい生活リズム: 睡眠、食事、運動、リラクセーションが大切です
③人とのつながり: コミュニケーションを取って、サポートし合いましょう
④自己効力感: 意味を持たせて、未来につなげましょう
《公共相談窓口のご案内》
■厚生労働省:「こころの耳」
◇電話相談: 0120-565-455(フリーダイヤル)
月曜日・火曜日 17:00~22:00/土曜日・日曜日 10:00~16:00(祝日・年末年始除く)
◇メール相談:下記サイトのメールフォームから相談(24時間受付)
働く人の「こころの耳メール相談」
■日本産業カウンセラー協会:「働く人の悩みホットライン」
◇電話相談: 03-5772-2183
月曜日~土曜日 15:00~20:00 (祝日・年末年始除く)
原 美聖(はら・みさと) シニア産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、公認心理師。 株式会社オフィシア代表取締役 (https://officia.co.jp/) |