こころのレシピ
東京支部では、日常生活や仕事の中のストレスや苦難を乗り越えるための知識や工夫を産業カウンセラーの立場からお答えし、ブログで紹介することで、少しでも皆さんのお役に立てればと考えます。
第19回は、産業カウンセラー・キャリアコンサルタントとして長く働く人の相談に携わり、教育分野でも活動中の林正己さんの登場です。ぜひご一読いただければと思います。
※相談内容・相談者は、実際に寄せられている内容を加工・編集しており、実際の相談内容をそのまま掲載したものではございません。
【ご相談:Yさん 53歳 男性 会社員】
大学を卒業後、大手通信会社にシステムエンジニアとして入社しました。入社当時は仕事が面白く、多少のストレスを感じつつも、充実した日々を送っていました。 |
(林)
ご相談を拝見しました。
Yさんは長く通信会社で働いてこられ、現在は開発部門の部長をされているのですね。最近では疲れが取れにくく、記憶力や気力の低下を感じていらっしゃるとのこと。お仕事に支障は出ていないようですが、日々頑張ってこられたお疲れが出ているのかもしれません。お身体で気になるところは、一度、病院などで細かく診ていただくこともよいのではないでしょうか。早めにご相談することで、より確かな安心が得られるものと思います。
また、お気持ちの面では老化を感じつつ、まだまだ生きなければならないという負担感があるのですね。お子さんが育っていく中、奥様との関係も気になっていらっしゃるご様子。人生100年時代という言葉がにわかにうたわれ始め、これからどうすればよいのか、ご自分の生き方に戸惑っていらっしゃるお気持ちが伝わってきました。
役割の変化をプラスにとらえ、生き方の転換を
このような中年期に感じる心の変化は、仕事や家庭の中での「立場や役割の変化」に伴って起きることがよくあります。たとえば、職場では役職や所属が変わったり、家庭では子どもや奥様との関係が変わることで、長年ご自身を支えてきた「自分の存在の確からしさ(アイデンティティー)」が揺らぎ、漠然と不安を感じたり、将来への展望を見失ったりすることがあります。がむしゃらに頑張ってきたYさんだからこそ、忙しく働く中でも、お子さんが自立していく姿を見て、肩の力が抜ける想いを持たれているのかもしれませんね。
人は長い人生のプロセスで、年齢とともにいろいろな役割を取得していくといわれます。就職すれば会社での役割、結婚すれば夫や妻という役割が生まれます。さらに子どもができれば親としての役割、昇進すれば課長や部長といった役割が加わり、親の介護が必要になれば、再び息子や娘としての役割が戻ってきます。このような役割の移行は、心の準備が十分できないまま進むことも多く、Yさんのように一時的に戸惑ってしまうこともあるのだろうと思います。
一生のうちには役割の転換期が何度かあり、上着を着替えるようにそれまでの役割を脱ぎ捨て、新しい役割を身につけていかなければならないことがあります。この変化をマイナスにとらえれば、不安や居心地の悪さにつながりますが、ひとつの役が終わり、次の役を担う成長のステップと受けとめれば、新しい自分の可能性を見つける機会となり、気持ちもプラスに向いていくのではないでしょうか。
疲れたときは少し立ち止まり、ご自分の人生を振り返ってみることもよいと思います。そして、この先定年を迎えるまでの間、職場や家庭、プライベートでどんな生き方、暮らし方をしたいのか、退職したらどんな生活をしたいのか、あらためて奥様の意見やご希望を聞きながら考えてみることも大切なように思います。
仕事に打ち込んできた生活から少し距離を取り、ご自分が楽しめる趣味や遊びの時間をつくったり、なかなか会えなかった友人に会ったり、地域の活動に参加したりなど、視点を変えてみると、やってみたいことが浮かんでくるかもしれません。これからの人生は、Yさんご自身が楽しんでいく時間と考えてもよいのではないでしょうか。
林 正己(はやし・まさき) 産業カウンセラー・キャリアコンサルタント。カウンセラーとして長く働く人の相談に携わり、教育分野でも活動中。 |
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